ないつておつしやつてはどう?」
「ええ、そう申しましたわ。だけど、中々きかないんですもの。あの私じやとても駄目ですわ。お姉さま、会つて下さらない?」
「仕方がないわね。じや、私会いましようか。先生、おききの通りなのでちよつと失礼致します」
 母を失つた今日、主婦としての位置に自然と登らせられてしまつたひろ子はこう云つて立ち上つた。
 ひろ子が部屋から出て行つてしまうと、さだ子は、藤枝の傍らによりながら、
「先生、あの伊達さんが警察に連れて行かれたつて、ほんとうでございましようか」
 と嘆願するように訊ねた。
「おや、さだ子さん、どうして御承知なのです」
「只今、伊達さんの所にいる婆やがまいりまして、もうちよつとさき、警察の方がうちに来てあの人を連れて行つたとしらせてくれましたので……」
「そうですか」
 私は藤枝がさだ子に何というかと思つて固唾をのんだ。
「実は私は今警察に寄つて来たのです。昨夜の事件の犯人らしい男が捕まつたというのですね。……あなた林田君にききませんでしたか」
「いえ、ちよつとさきに林田先生にお目にかかりましたけれどもその話は……」
「そうですか。その男は早川辰吉とい
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