は、惨劇の後、一人だつて陽気に見える者はなかつた。それは云うまでもない、比較的しつかりしているひろ子でさえも、この物語の冒頭で私が諸君に紹介した通り、どことなく淋しい美しさをもつている。彼女も惨劇後かなりやつれてはいた。今までの話も、中々しつかりはしているけども、陽気な処は少しも見えなかつた。
 しかし、今はいつて来たさだ子の様子は、全く、雨に……否暴風雨に打ちひしがれた海棠の面影である。第一の悲劇の直後、私がはじめて彼女にあつた時とは何たる変り方であろう。
 彼女は今、気も魂もまつたく打砕かれてしまつた美女としか見えなかつたのである。ことによると、愛し切つている青年伊達正男が、恐ろしい嫌疑で警察署に連れて行かれたのをもう知つているのではあるまいか。
 さだ子は部屋にはいると、藤枝と私に一礼したがすぐ、ひろ子の方を見て、
「あの……お姉様ちよつと」
 と用事ありげによびかけた。
「何よ。さださん、かまわないわ。おつしやいよ」
「今、清や[#「清や」に傍点]の叔父つていうのが来てね……」
「ああそう。暇をくれつていうんじやない?」
「ええ、そうなの」
「お父様が今御病気だから、今日は判ら
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