夫というのが、かりにやす子に恨みがあつたとしてもどうして弟をあんな目にあわせたんでございましよう」
「さあそこです」
「私には、やす子に恨みのある者が弟を殺さなければならない、という理由がどうしても判りませんわ。弟がその犯罪を邪魔したか、現にそばで見ていたかしない限りは……それにしても駿太郎のような子供にそんな邪魔が出来るわけはなし、また唖でない限り、黙つて見ていたとするのもおかしゆうございますわ。先生、そうお思いになりません?」
「そうです。そういう考え方はたしかに正しい考え方だと私は思います」
「それに、やすや[#「やすや」に傍点]の知り合いの男なんか駿太郎が知つているわけはないじやございませんか。駿太郎はたしかに、あのピヤノの部屋から誰かよく知つている人間[#「知つている人間」に傍点]にさそい出されたにちがいないと思いますの」
彼女はこうはつきり云つて再び藤枝の顔を見た。
この時、ドアがあいて、笹田執事が、三人分の紅茶を盆にのせてうやうやしくもつてはいつて来た。
3
ひろ子のひどく論理的な質問にいささかタジタジになつていた藤枝は、笹田執事がはいつて来るのを見
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