が男だか女だか判らなかつたかい」
 早川はまた暫く藤枝の方を見つめていたが、やがて悲痛な調子で叫んだ。
「ああ、あなた方は、またそんなことの何も知らぬことばかりきいていじめるのですか……」
 彼はこう云つたまま下を向いて再びむせび泣きはじめた。
 警部も藤枝も、少しも顔色をかえず、黙つて彼の様子を見ていたが、ちようどその時ドアをノックして一人の巡査が現れた。
「伊達正男はさつきから刑事部屋に待たしてあります。それから林田氏が今見えましたが……」
「うんそうか。林田氏を通してくれ給え」

   あらしの前

      1

 間もなく、林田が戸口に現れた。
「やあ、高橋さん先刻はわざわざお電話ありがとう。早速うかがうわけだつたんですが秋川駿三を今ちよつと訪問して来たのでね……藤枝君、秋川駿三は可哀想にひどく弱つてるぜ。昨夜から床についた切りだよ。木沢医師が今朝からずつと来ているけれど、面会謝絶の状態さ」
「そんなに重態なのかい」
「何、そうでもないんだが本人が一切誰にも会わん、と頑張つているらしいんだ。何分われわれがいる所であの騒ぎだろう、どうも僕らは信用をすつかり失つちまつたらしいん
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