たものだから、のぼせ切つて、あの暗闇の中でその子も一緒に殺してしまつたんだ。そうだろう」
「あの……子供も……殺された!」
 この時の早川の顔付こそ世にも不思議なものだつた。駿太郎が同じく殺されていたなんて、全くはじめて聞く事実であるのみか、司法主任の質問の意味が、さつぱりわからないで面喰つたという有様である。
 狂言とすれば実に巧みな狂言と云わなければならない。
 警部は、しかし相手の様子に少しも構わずたたみかけた。
「お前にはつきりと聞かせておく。お前は、昨夜すなわち四月二十日午後九時、秋川駿三の家の塀を乗りこえて同家の庭に侵入し、女中佐田やす子及び同家の一人息子秋川駿太郎を惨殺した、という嫌疑で今取り調べられているのだぜ」
 早川はこれを聞いて、暫く呆れたようにぼんやりと警部を見つめていたけれども急に、自分が非常に危険な位置にいることにはつきり気が付いたのか、ぼろぼろと涙をこぼすと同時に両手で顔を蔽つて、
「何も知りません。何も知らないんです。二人殺すなんて……。一人だつて殺したおぼえはありません」
 と叫びながらそこに泣き伏してしまつた。
 藤枝はさつきから、早川の様子を黙つて
前へ 次へ
全566ページ中250ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング