て恐れておりますように思われるのでございます」
「生命の危険をですか」
藤枝がきいた。
「左様《そう》です。父はたしかに生命をおびやかされております。名誉や財産ではございません。はい、それはたしかでございます。そう考える理由が充分でございますの」
2
秋川嬢はつづけた。
「それをはつきり知つて頂くためには、父が昨年勤めを一切やめてしまつた頃からのお話を申し上げる必要があると存じます。元来、私の父と申す人は、余り強気の人ではございませんが、しかしともかく、秋川家に入りまして……あの御承知かどうか存じませんが父は養子でございますの……秋川家に入りましてから、事業も凡てに成功いたして今日までに至つた位でございますから、そんなに意気地のない性質ではありません。けれど私が幼少の時から父は大変神経質でございました。
それがこの数年になりましてから、だんだん神経衰弱のようになりまして、毎晩眠り薬をのまねばねむれぬという風になつてまいりましたのです。
医者にも診ては頂きましたが、格別にこれと申して、はつきりした原因はない。多分事業が余り劇《はげ》しすぎるからではないか、というよ
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