したが、彼女は何かひどくいそいでおりますので、私は考えをかえ、ひそかに尾行してまいりました。すると五、六町も行つた所の西郷薬局という店にはいりました。私は一分を一時間位の気もちで持つておりますとやつと出てまいりましたので、曲り角でいきなり彼女に出会したのです。
この時のやす子の驚きは申し上げるまでもありません。私は今まで思つていたことが一時に胸に迫つて来て何から云つてよいやらほんとにわけが判らなくなつてしまいました。しかし何分往来中のことでもありますので、二、三町廻つた所の小さな公園の中にはいり、ベンチに腰をかけて六、七分ばかり話し込みました。無論彼女は逃げよう逃げようとしていたのでありますが、私がおどかしてつれて行つたのです。
ところが、やす子は、帯の間から薬の包を出して、何分今急病人があつてこれを取りに行つたのだから、今は長い話はできぬと申して逃げようと致しました」
「ちよつと君。やす子はその薬袋を手にもつてはいなかつたかね」
藤枝が言葉をはさんだ。
「いえ、帯の間から出して私に見せたのです。私も、ともかくここで長い話はできぬ。では今はこれで別れるが今夜ひまがあつたら会おうじ
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