相変らず自動車中を一杯に煙草の煙を吹きつづけたが、何を思つたか、ふとこんなことをいい出した。
「あの、伊達正男という青年ね。ちよつと好意のもてる顔をしているじやないか。いい青年だよ。僕は、彼が今度の犯罪事件に全く関係のないように望んでいるんだがね。そういえばあの男たしかに誰か僕の見た男に似ているよ。どうも思い出せない……」
 私にはしかし彼のいつてることがよく判つていた。伊達は、そのおもざしが、花形力士天竜をまともに見た時の感じによく似ているのである。あの凛然としていて同時に一くせありげな面だましい、ともいうべき顔によく似たいい男である。
 この年の一月場所、私は藤枝を角力にさそつたことがあつた。少年時代に、梅《うめ》ヶ|谷《たに》、常陸山《ひたちやま》の角力を見た切り、さつぱり角力を見たことのない彼は、つまらなそうに土俵を見ていたけれど、幕内の土俵入りの時早くも彼は天竜を見て、
「ありやいい角力だね。何ていうんだい」
 と私に説明を求めた。
 ついで天竜が土俵に登つて能代潟《のしろがた》と戦い、掬投《すくいな》げでこれを仕止めると思わず拍手を送つて喜んでいた。もつともこの日人気の焦点
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