れない。これがもし探偵小説なら僕は第二の事件から先に書くねえ。何故ならばその方がすぐ読者をひきつけると思うからだ。第一の事件は地味で渋い。第二の方が派手だからな。
「けれども、わが殺人シンフォニーの作者には第一楽章の方が性質に適している筈だ。彼は最終までアンダンテで押し通すべきだつた。彼には昨夜のようなプレストの作曲は元来むかないんだよ」
彼は立つたまま紅茶をのんだがやがて私の前に腰を下ろした。
7
「昨夜は僕も実は驚いたんだ。第二の楽章が終つた時、それが余りに第一楽章とちがつているのでひよつとするとこりや作者、すなわち犯人が別なのじやないかと疑つて見た。しかし、昨夜ずつと考えて見るとどうしてもやはり同一人の作としか思われない。秋川一家に対する「呪《のろい》」の Leitmotiv《ライトモチーブ》 が奏せられている限り、どうしても同一人の仕業と思わなけりやならん。とすればだ。どうしてあのような作者たる犯人は五月一日を待たず、昨夜俄に、殺人を行つたか。これに対する解答はたつた一つしかあり得ない。すなわち、五月一日まで待てぬ事情がおこつたのだ[#「五月一日まで待てぬ事情
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