て見たまえ」
「うん」
「ここに微妙な心理学的の考察が必要となるのだ。その犯人がだね。予じめ五月一日といつておきながらどうして廿日になつて俄然その第二楽章を演奏したか、という問題だ。しかもあんなに急テンポに僕らの前でたつた三、四分の間にね」
 私には彼のいう所がよく判らなかつた。
「昨夜の惨劇のあの素晴らしさ、あの電光のような速さ。正にこれは Presto agitato だ。第一の楽章をあの荘重なアダヂオで作曲した犯人が何故第二楽章を昨夜突然プレストで書いたか。君にはこれが判るかね。実に予期に反した出来事じやないか。彼は第二の殺人も四月十七日の通りの調子で五月一日に行おうと思つたのだ。昨夜僕らは全く不意を打たれた形だつたよ。しかしこれは何故だろう。
 ここで忘れてならないことは、第二の殺人、すなわち昨夜の事件は、実に早く、素晴らしくものの見事にやつてのけて、大向うをうならせたかも知れないが、第一の殺人に比して甚だしくそのやり方が拙いということだ。作者すなわち犯人は非常な危険を冒して、危く身を以つて免れている。危険に身をさらしただけに案外その結果は見事だつた。だから一般には受けるかも知
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