」
彼は片手を後にやり片手で時々シガーを口にもつて行きながら部屋の中をあちこちと歩きまわつてしやべり出した。
「僕は今回の犯罪を同一人がやつたことと信じている。だからこそその犯人をナポレオンなり天才なりとして尊敬しているのだ。まずあのうす気味悪い脅迫状を思い出したまえ。これこそ堂々たるイントロダクションではないか。そうして十七日に行われたあの悲劇。何と完全に、何と冷静に、何とうす気味悪く行われたことか。かくして Murder Symphony(殺人交響楽)の第一楽章が奏でられ終つたのである」
「何、殺人シンフォニー?」
6
「そうだ。僕の考える所によればこの犯人は順次に秋川一家の人々をやつつけて行くつもりじやないかと思う。その第一の犠牲者がすなわち徳子だと云うわけだ」
「君はそれを殺人シンフォニーの第一ムーヴメントだというのかい」
「ふん、もし云い得ればね。殺人は音楽ではない。どんな天才だつて多くの殺人をソナタ形式で行つてゆけるものじやないよ。恐らく、最終の楽章まで第一楽章と同じに作り奏して行かねばならない筈だ。それが今云つた通り犯罪には犯人の個性があらわれて来るとい
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