ぶん》こつちに充分な時間的な証拠がないので、とうとう新しい事実は一つもつかみ出せなかつた。もつとも一回は一回よりうまく行つていたので、昨夜あれからもう一回調べたらあるいはほんとのことを自白させることが出来たかも知れない。もし彼女がほんとのことを云つたとすれば少くもあの昇汞が秋川家に来るまでに代つたか、来てからかわつたかが判然とするわけだつたのだ。ねえ、判つたろう、彼女が秋川徳子の事件に対して如何に重大な立場に立つていたかということが」
「うん、成程」
「そのやす子が殺されたのだ、とりもなおさず徳子の犯人にとつては非常な利益じやないか。もし、かの草笛氏が仮りに痴情か何かの結果、やす子を殺したとすれば、彼氏は知らずして徳子の犯人をかばつたことになる。これははたして偶然だろうか」
「しかしもし徳子の犯人が昨夜駿太郎を殺したとすればいかなる方法でやす子を殺したかね」
「さ、そのデテイルについてはあとで考えよう。そこで僕の考えでは、もし草笛氏がやす子の殺人犯人だつたとしたら、とりもなおさず彼が徳子の犯人だとしていいと思うよ。君も知つているとおり[#「とおり」は底本では「とあり」]犯罪によつてまず
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