件、秋川徳子の殺人事件において彼女がどういう関係に立つているかということさ。今しばらくやす子の痴情関係や怨恨関係を考えの外にして研究して見給え。彼女は秋川一家に対する怨恨事件に重大な関係がある」
 私はこう云われてはじめて佐田やす子の死体を見た時の林田の言葉を思い出した。
「君は林田の言葉を忘れたかい。彼は彼女の死体を見た時に何と云つた。大切な証人をなくしてしまつたと云つたじやないか。ほんとにそうだよ。僕らはやす子が死んだので重大な証人を失つてしまつたんだ」

      5

「君も知つている通り、佐田やす子は十七日午後に西郷薬局に使いに行つた女なのだ。
 誰もあんなことになるとは思わなかつたので彼女が何時に秋川邸を出て何時に帰つて来たか、また西郷薬局に何時について何時にそこを去つたか、そんなことは一人も覚えてはいない。問題となるのはそこなんだ。しかも甚だ困難な点なのだ。これが正確に判つていればもつと厳しく彼女を責めることが出来たのだが誰も時間を正確にはかつていた者がない。ただ少し時間がかかりすぎたようだと皆がいうのをたよりに僕も林田も恐らくは警察も彼女を訊問したけれども、何分《なに
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