が座をはずしてしまえば、これから後に説くような惨劇の渦中に私はとびこむ必要もなかつたわけだが、同時に私は秋川家の美しい人達とも永久にあわなかつたかも知れない。
「いま藤枝君が申す通り、私は藤枝君の手伝いをやつているものです」
われながら訥弁だとひどく感じながら、私は美しい秋川嬢の前で、やつとこれだけをいつたが、なんだか顔が赤くなつたような気がした。
「しかし、藤枝君に特に極秘の御要件でしたら私はご遠慮しましようか」
こんなつまらぬ遠慮をちよつと口からすべらせてしまつて実はひやつとした。
「なんだい、君、いつものようにここでお話をいつしよにきいたらいいじやないか。……秋川さん、小川君はこういうつまらぬ遠慮を時々いうんで困るんですよ。殊にあなたのようなお若い、立派な方が見えるときつと、こんなにはにかむんですよ」
彼はこういつて、ちらとこつちを見た。
女性を恋せず、女性を尊敬しないという藤枝は、しかし女性に対しては、きわめて社交的である。彼は巧《たくみ》に相手の窮窟さを楽にしようとした。
秋川嬢は、ちよつとあかくなつたが藤枝をにつこり見ながら云つた。
「やつぱり私みたいな者が時々う
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