した。
「僕あ応接間にいてヴィクトローラが鳴り出した時こりやショパンだなとすぐ感じた。そうして僕の記憶にして誤りなくんば、君がここへかけつけた頃、このレコードのパデレヴスキー氏は、例のトリオの部分をかなり進んでひいていたように思うがね」
私はあの咄嗟《とつさ》[#「咄嗟」は底本では「咄差」]の際の藤枝の観察の鋭いのに感心した。
「うん、思い出した。僕がグースネックをもち上げた時にたしかにそこをやつてたよ。ほらいつか僕らがどこかでこのレコードをきいた時君が、どうもパデレヴスキーのよりパハマンの方がいいと云つたことがあつたな、あのトリオの所だよ」
「ところが、今われわれはパデレヴスキーに感謝しなければならん。もしもこのレコードがパハマンのだつたら、たとえこのように駿太郎君が姉上の命令にもかかわらず金針を用いたとしてもああはつきりとはきこえなかつた筈だからね」
彼はこう云いながらレコードを手にとつて暫く眺めていたが、
「へんだぞ。見給え、このレコードは大分ほこりがついている。然し針の走つた所だけはこうやつて見るとはつきりごみが取れてるんだ。ところがこのごみの取れている所が僅か三、四分しか
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