ないよ」
彼はこういうと、そばの竹針をとつてそのレコードをはじめからかけながら、目を皿のようにしてヴィクトローラの中を見つめていた。
葬送行進曲は再び奏でられはじめた。しかしあの美しい部分にはいらぬうち、すなわちABAという形式のAの部分の途中で、藤枝は不意に廻転をとめてしまつた。
3
「へええ、ちようどここで終りだよ」
「何がさ」
「きれいな所がだ、音楽のことじやないよ。レコードの表面のことだ。つまり最近針が進んでいたのはここまでだというのさ」
「だつてさつきは確かにもつとさきまで行つていたと思うがね」
「そうさ。わが音楽趣味に感謝す、さつき僕はここん所をきいたと思うよ」
彼はこういうと、口笛でショパンの葬送行進曲のトリオの部分をふいていたが、ふと振り返つて窓を見た。
「ブラインドが降りているね、さつきやす子を調べていた時はこの窓が三つともあけてあつたと思うが」
「うん」
「君はこれらの窓の上があいていたか下があいていたか判然とおぼえているかい。――特にこのヴィクトローラの側の窓の……」
「さあ、はつきりしないが、下の方が二尺ばかりあいていたと思うよ。そうそう、
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