この裏にもやつぱりひどく土がついているぜ」
と私の顔を見たが
「まあいいさ。別に君に関係してるわけじやないんだよ。しかしちよつとこれは外のと別にしておいて貰わないと困る。……」
彼はこう云いながら、その一足のスリッパを手にとつて歩き出したがふと立ち止つた。
「ねえ君、スリッパ一足でも持つてつちや泥棒だね」
「じや黙つてもつていかなけりやいいじやないか。ちやんと主人にそう云つたら……」
「いいや、まあよしにしよう。それ程大切な物じやないよ。しかし君僕が今これに気のついた[#「気のついた」は底本では「気のつい」]ことを断じて誰にも云つちやいかんぜ」
彼はこういうと、せつかく今探しあてたスリッパをそこにポンと捨て別のをはいてさつさと廊下を歩き出した。
このスリッパの一挿話はごく些細なことのようだけども、後に思い当る所が非常に多くなつて来るから読者はよく記憶しておいて頂きたい。
座敷に来ると、中には続く不幸に悩まされ切つた秋川一家の人々が皆青い顔をして集つていた。家族以外の者では、伊達と林田がいるだけだ。
主人はもう勇気を恢復したけれども、しかし物を云う気にはならないらしい。
ひ
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