しいね。こつちには別に異状はないらしい。じや僕等も主人公を慰問するとしようか」
 と云つたが私は彼より早く、母屋の廊下に飛上つてしまつた。そこには、スリッパが無暗にたくさんぬぎ捨ててあつた。
「おやおや、昼間のお客さんがぬぎすてたまんまかい。表玄関を遠慮した連中の為に此の家で出したんだな。一つ拝借するとしよう」
 藤枝がこんな事を云いながら後から上つて来た。
 その時ほんの偶然から、彼は右足をスリッパにつつかけそこねてよろよろとすると同時に、そのスリッパを横の方にはねとばしてしまつた。
 彼はそれで他のスリッパをはいたが、ふとはねとばされたスリッパを見て、独り言を云つた。
「おや、こりやおかしい」

      5

「どうしたんだい」
「いや、何でもないが、一寸このスリッパを見給え、裏にひどく土がついてるじやないか」
 こういうと彼は今度は夢中になつて十五、六もおいてあるスリッパを片つ端から調べて居たが、やがて私に向つて命令するようにこう云つた。
「おい君、そのスリッパをぬいで見せろよ」
 私がいわれるままに両方ぬぐと彼はその時私が左足にはいたスリッパを調べていたが。
「ほら見給え。
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