畜生、とんでもないことになつたぞ」
不意に興奮した林田の声が近よると、彼はいきなり死体の所に寄つて藤枝のした通りに手をあてた。
「畜生! 大切な証人を!」
「まつたくだ。まつたくだ。これでわれわれはまた大きな困難に出会《でくわ》してしまつたんだ」
藤枝はいかにも残念そうに唇を噛んだ。
「僕はひよつとするとこんなことになりやしないかと心配してたんだが……まさかこう早く来ようとは思わなかつたよ」
藤枝は独り云うようにこう云いながら、はじめてシガレットケースを取り出し、一本ぬき出して口にくわえると直ぐ火を点じた。
「高橋さん、また一つ死体がありますよ。ここです。こつちこつち!」
不意に林田が木戸の方を見ながら、しきりに懐中電燈を振つて相図をするので、ふりかえると、警部が電話をかけ終つたと見え、手に一つ懐中電燈を携えて、木戸から駿太郎の死体の方に歩いて行くところだつた。
私はこれから約一時間にわたつて秋川家におこつた検視、捜索、訊問等全部をここに詳述することはできない。それは読者にとつてはいたずらに煩わしいばかりである、と思われるからだ。だから私はごく簡単に事件の進行を敍述して行く。
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