張つたり、ぶちこむわけには行かないこと勿論である。
 それも、一定の住居のない浮浪人とか、一定の職業もなく偽名を用いているというような相手ならば、ただちに警察に引張る手もあるのだけれども、今まで現れた人達は、実業家として堂々たる邸宅を有する紳士及びその家族、並びに召使と、立派に薬剤師として営業している家の主人及びその雇人なので、警察でもそう高飛車に出ることを遠慮していたらしい。
 藤枝、林田両名にすればなお更で、これはしきりに秋川家を訪問はしていたけれども、取込み中とて中々取調べははかどらないようだつた。
 私には藤枝が一体誰を疑つているのかさえ知りようがなかつたのである。
 無駄と知りつつ十九日の夜、藤枝にその見込みをきいた所、彼は苦り切つて答えた。
「全く判らん。あてもつかない。警察のような権力をもつていないのが残念だよ。あいつ[#「あいつ」に傍点]をもつと厳しくせめなけりや第一方針が立てられん。しかしもう一日待ち給え。明日の、そうだ、夜になればいくらかはつきりするだろう」
 あいつ[#「あいつ」に傍点]とは誰だろう。
 これは後になつて聞いたことだが、検事は十八日一通り皆を調べた
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