何事も起らなかつたなら、世人は秋川夫人の怪事件を、あるいはそれきりで忘れてしまつたかも知れぬ。つづいておこつたあの惨劇がなかつたならきつと秋川という家は、殺人鬼という名と共に人の記憶に残るようなことはなかつたろう。
然るに、第二の悲劇が意外にも同一の家の中におこつた。これは藤枝と林田にはあらかじめ予告のあつたことはすでに読者の知らるる通りだ。しかし世人は無論そんなことを知らない。否私だつてこんな予告を信じていたわけではない。
しかし悲劇は予告よりもはるかに早くおこつた。五月一日をまたず。四月二十日、すなわち夫人の葬儀の夜、意外な時におもいもかけぬ人が被害者となつた。
誰が殺されたか。
読者試みに想像したまえ。
2
と云つたからとて、四月二十日まで警察が眠つていたわけでもなく、また藤枝、林田両探偵が手をつかねてぼんやりしていたというわけでは勿論ないのだ。
よく探偵小説などでは、殺人事件が起ると少しでも怪しいという人間が片つ端から拘引されるように書いてあるものだけれど、いやしくも法治国において、現実に事件が起つた場合、ただ「あいつが怪しい」位で無闇とその人間を引
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