ある。

   誰を疑う

      1

 藤枝はへんな微笑を唇に浮べて私をじつと見つめている。私の心の中で突然ある考えがひらめいた。
 では、藤枝はあの伊達正男という男を疑つているのではないか。
 彼は、黙つている私をながめて、また煙を吐きながら語り出した。
「ところで、一体駿三はあれ程までに脅かされていたのに、どうして警察に云わなかつたか。これは今も云つた通り、余程重大なことだが更に今日でも全くあれをかくしているのはどういうわけだろう。すなわち既に自分の家で殺人事件が行われてしまつたのだ。それだのにまだはつきりしたことを述べない。
「次にさだ子とひろ子の供述の矛盾をはつきりおぼえていてくれ給えよ。さだ子は、夜、ずつと自分の部屋にいて誰も自分以外にははいつて来なかつた、とはつきり云つている。一方ひろ子の言に従えば、明らかに伊達がさだ子の部屋にいたということになる。云いかえれば伊達は少くともさだ子のひき出しから薬を出し得るチャンスをもつていた。ただし封をそつとあけて中味をすりかえ得たかどうかこれは一応考える必要がある。
「この事実に関しては、本人の伊達があの時さだ子の室にいたと云つ
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