ら相手に脅迫状を送るのも意味はあるが、僕だの林田にこんな手紙をよこすというのはちよつと気狂いじみちやいないかね」
彼はこう云いながら例の封筒を入れたポケットを外から叩いた。
「まるで探偵小説じやないか。しかし、こういう事をかりに犯人がやつているとすると、今度の犯罪はこの点にたしか一つの特徴があると云えるよ。よくおぼえておいてくれ給えね」
ちようどこの時、空車という札をかけた自動車が通りかかつたので、藤枝はすばやくそれをとめて、二人は車中の人となつた。私も一緒にこれから彼のオフィスに行くつもりなのである。
車が牛込と麹町の二つの高台の間になる外濠の所に来るまで、彼はだまり込んで煙をふきつづけだつたが、ふと口をきつた。
「さつきひろ子が、ヴァン・ダインの小説をよんでいたと云つたのをきいたろう。君はあれについてどう思うね」
「さ、どう思うつて。君があの時検事に云つた通りさ。このごろのお嬢さんが探偵小説を読んでいたからつて僕は少しも不思議だとは思わないよ」
「うん、そりやそうさ。しかしね。あの『グリーン殺人事件』という特別の名が君に何かを暗示しなかつたかい。少くとも僕らが知つている所では
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