、あの人は、秋川一家に、――殊に父親に何か危険が来はしまいか、と恐れていたのだぜ。しかもその結果思い余つて僕の処にきのう来た人だよ。しかも更に僕の処で、おかしな手紙を受け取つて青くなつて帰つて行つた人だぜ。その人が昨夜、あんな本をよんでいた、という事実はどうだろう。君は一体どう思う?」
「うん、成程そう云われりやおかしな話だね。あんな小説をよんでいる余裕はなさそうに思われる。でも僕はあの人がいいかげんなことを云つていたとは思いたくないな」
私は知らず知らず美しいひろ子を信じる気になつていた。
「いや、僕のいうのはそういう意味ではない。出たらめだと云うのじやないよ。ほんとだとするんだ。ほんとだとするとどういうことになるだろう。今日行つたあの家のお嬢さんが、惨劇の直前に『グリーン殺人事件』をよんでいたという事実……面白いじやないか」
私はこの時はじめて「グリーン殺人事件」の内容と、今の状態を思い合わせて、車の中でおもわずぞつとしたのである。
「小川君、僕の記憶がまちがつていないとすれば、あの小説はグリーンという一家族の者が、不思議な方法で次から次へと一人ずつ殺されて行く話だつたね。フィ
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