根本的に改めなければならないかも知れん』と云つていたがありやどういうわけだい」(ひろ子の推理第一回参照)
私は思い出して聞いて見た。
「うん、あれか。あれはあの日一日だけ僕の頭にあつた考えなんだ。これは後にいうが、僕はあの日まで、犯人は男だ[#「犯人は男だ」に傍点]と確信していたんだ。ところが、あの犯罪は断じて女の犯罪だと思つたんだ。あの時云つた通りのわけでね。(同上参照)しかし、翌二十六日に、初江の胃から健胃剤のかわりにヴェロナールが発見されたときいて僕は再び元のテオリーに戻つたんだ。だつてあんなものをのまされていては、女でなくたつて男だつて初江のそばに近づけたはずだからね。だから僕は非常な事実だと云つたんだよ」(警部の論理第三回参照)
「それにしても林田がわざわざそんな危険なスミスのまねなんかしたのは妙だね。第一回の時のようにだまつて昇汞でものませた方がたしかだつたろうがね」私がきいた。
「君は犯罪人のもつ虚栄心を知らないかい。彼には僕らがめんくらつて五里霧中でいるのが面白かつたんだよ。すばらしい殺人がやつて見たかつたのさ」
運命の相似三角形
1
藤枝はちよつと黙つて茶をぐつと呑みほしたがすぐ続けてしやべりはじめた。
「さて次は五月一日の事件、第四の悲劇の説明に取りかかるはずなんだが、ここで僕は順序として何故林田があんな犯罪を行つたか。すなわち今回の連続した殺人の動機を説明しようと思う」
「そうそう、それだ。まずそれを充分に承りたいものだね」
奥山検事が朝日をプカリプカリとふかしながら、勢いのいい声で云つた。
「恐ろしい運命のいたずらだ。宿命の三角形だ。幾世の前からさだめられた深刻な運命だ。と云えばいささか文学的になるが、科学的に説明すれば、僕らは今度の惨劇から遺伝というものの強さをしみじみと感じたのだよ。人間に自由意志なんてものはないよ。僕らはまさにデテルミニストに左袒しなければならぬ。シェークスピヤは人間に自由意志のないことをその戯曲で示した。わが大近松もまた……」
「というと、林田の父が犯罪者だつたとでもいうのかい」
危く藤枝がまた脱線しかけたので検事が我慢しきれずに口を出した。
「そうではない。そんな意味ではない。被害者の側だよ。林田家対秋川家の問題なのさ。ねえ、僕らは秋川駿三という名を余りに考え過ぎていた。秋川駿三の血統ということを少々無視しすぎていたのだ。この問題が秋川対林田である限り、真理は永久に表面に浮んでは来ないよ。君らは秋川駿三が養子であることを御承知の筈だ。小川君、君はいつか僕のオフィスで秋川駿三が何という家から秋川家に入つたか、ということを興信録で読んだはずだつたね」
こういわれて私ははじめてそのことを思い出したのである。(美しき依頼人第六回参照)
「秋川駿三は二十三才の時、徳子と結婚し、同時に秋川の姓を名乗つた。その以前、彼は山田駿三と云つていたのだ。(同上参照)事は今から約四十年以前、中国地方のある一寒村に於ける二つの家の悪因縁話からはじまる。ああ、君らは、あの伊達、秋川両家の話を思い出したのだね。そうだ。ちようどそれと同じようなこと、いや全く同じことが今から四十年前、伊達、秋川両家の事件から更に遡ること二十年前に、行われたのだ。所は中国の一寒村、二つの家というのは林田文次すなわち英三の父の一家と、山田信之助すなわち駿三の父の一家との間に、恐ろしい運命がいたずらをしたのだよ。宿命の三角形が形づくられたのだ。山田信之助という男は、健《たけし》、駿三という八才と五才になる男子まであるにかかわらず、林田文次の妻満子と関係してしまつたのだ。いいか。ここでも姦通劇が行われたのだぜ。そうして、二十年後の伊達捷平と同じく、この林田文次という男は当時病気で床についていたために、彼は妻の不貞を知りながらも、悲憤の涙を呑んでそれを見ていなければならなかつたのだ。しかしその結果は伊達の場合とは多少趣きをことにしている。満子が先に死んだ。自殺だと伝えられているが、あるいは夫文次にひそかに殺されたのかも知れない。何分四十年以前のでき事なので、この辺の調査は充分にできない。この点は伊達捷平の場合よりずつと調べが困難である。自殺とすれば彼女は、伊達かよ子と同じく自分の罪を悔いたのであろう。そこで残された文次はどうしたか。彼は今云つた通り当時から病身だつた。そうして妻が死んでから七年生きていたけれどもその間妻と山田信之助とを呪いつづけた。満子が死んだ時、二人の間には一才になる子があつた。これがすなわち林田英三である。
2
「秋川一家にかかる殺人事件を惹起した呪いは決して二十年前の伊達捷平の呪いではない。
「彼の呪いは里村千代を通じて脅迫状となつて表われた。しかし、この多くの生命
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