だの僕だのにきびしく責められて来る。何もそれほど苦しんで、自分が犠牲になる必要はあるまい。いつそ、一思いに事実をぶちまけてしまおうか、とこう思いはじめたんだ。この心理の変化を、林田は早くも見てとつた。しまつた、これは自分の思つていたのと少し勝手がちがうぞ、こりやいかんとこう彼が決心したのが、丁度四月二十日の夜なんだ。いよいよ第二の悲劇の説明にとりかかるわけだが、今までの話はよく判つたろうね。佐田やすの心理はよくおぼえていてくれ給えよ」
 藤枝はこう云うとかたわらの茶を一口のんで、またうまそうに煙草の煙を天井に吹いた。

      7

「四月二十日の夜、僕と小川君とが秋川邸に行つた時、そしてピヤノの部屋に行つた時、あそこでは林田がやす[#「やす」に傍点]を訊問していた。いやもつと正確に云えばやす[#「やす」に傍点]を訊問している如く見えた。僕は当時無論真相を掴んでいたわけではなかつたが、ともかく、やす[#「やす」に傍点]を落すのが切迫した必要条件だと感じていたのだ。だからこそ、あの日、林田がすでに来てやす[#「やす」に傍点]を調べているときかされて、あわてたんだ。白状するがあの時は全く功名争いからあわてたんだよ。部屋にはいると、やす[#「やす」に傍点]は泣き顔をしていた。林田は、実に剛情な女だと云つて怒つた顔をしていたが、それは実は咄嗟のごまかしで、彼はやす[#「やす」に傍点]を訊問すると称してあの部屋でさし向いになり、厳重にくり返しくり返し十七日の午後の警告を説いたにちがいない。そうして彼女から、彼女があの夜、草笛の合図で辰吉に会うはずであることを探り出した。そこで彼はこう命じたのだ。合図がきこえたら誰にも知れぬように庭の隅に行つてそこから紙ツブテを投げろ、ポストの所で待つていろと書いてやれ、という命令だ。それがすんだ頃、ちようどわれわれがあの部屋にとび込んだんだよ」
「だつてあの時、林田は、君に、一つ君の腕で充分調べて見給え、何なら僕は遠慮しようか[#「何なら僕は遠慮しようか」に傍点]と云つたぜ。もし彼にえんりよさせて君がやす[#「やす」に傍点]をほんとに白状させたらどうするつもりだろう」(第二の惨劇の項参照)
 私はあの時のことを思い出してたずねた。
「うん、林田には二つの自信があつたのだ。第一は、彼がさんざんおどかした直後、いくら僕が調べたつて彼女が真実を云いはしまいという自信。もう一つは、ああ云つてもまさか僕が、じや、えんりよしてくれ、と云うはずがないと考えたんだ。これは今までの例によつて彼には充分判つていた筈だ」
「それはいいとして一体林田はそこでどうしようとしたんだね」
 今度は検事が口を出す。
「そうさ。まず僕の考えは、やす[#「やす」に傍点]を庭に出しておいて一刻も早く片付けてしまおうというわけだつたのだろう。おそらく、駿太郎殺害は偶然のチャンスをつかんだのにすぎない。すなわち、僕らがあの室から出て来るといきなりひろ子と駿太郎にぶつかつた。ひろ子は僕がつれて応接間に行く。駿太郎はピヤノの部屋でレコードをかけている。さだ子は二階の自分の部屋にいる。とこう判つているのだ。いいかい、これからがまた大切な点だよ。林田は草笛をきいているから――彼は何も気が付かぬふりをしていたが無論知つていた筈なんだ。――やす[#「やす」に傍点]が庭の森の中に行つたことをすぐさとつた。一刻も早く彼女を片付けなければらならない、自分があとから森の中に行かねばならぬ。それには自分のアリバイを立てておくことが絶対に必要となつたのだ。そこで、彼は実に適当な人間を自分のアリバイの証人にみこんだんだよ。この点さすがは彼だと僕は感服していたのさ」
「君は無論さだ子のことを云つているのだろうが、では一体彼如何なる力をもつてさだ子に、アリバイを立てさせたんだろう」
 検事がつつこむ。
「そこだよ。さつきの僕のおしやべりを君はいやな顔をしてきいていたがね。やつぱり君にも判つていないじやないか。僕は云つたろう。第一楽章に恋する女性の心理を利用する[#「第一楽章に恋する女性の心理を利用する」に傍点]というテーマがひびいていると同様に、第二楽章に同じテーマが現れているとね。つまり、この時、林田の用いた方法は、対佐田やすと同じテーマのヴァリエーションに過ぎないよ。彼は、さだ子の伊達に対する恋愛を利用したのさ。

      8

「判らないかい。ではまず事実の進行をさきへ物語ろう。林田はおそらく一度二階に上つたに相違ない。そうして多分彼の云つた通り、そこで彼はさだ子と伊達が話している所にぶつかつた。さだ子に用があるから、と云つて伊達にすぐに帰るように云い、林田はさだ子と共に部屋にはいつた。ここまでは林田の云う通りに違いない。(惨死体の項参照)ただそれからが大分違
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