にさだ子に[#「さだ子に」に傍点]とひとこと申しました。これはこの前も申上げた通り、母はとり返しがつかなくなつてから自分のかたきを知つたのでございましよう。あの日西郷へ薬をとりにまいりましたのはやすや[#「やすや」に傍点]ですが、やすや[#「やすや」に傍点]が帰つてから薬はさだ子が受け取り、それから夜まで薬はさだ子の部屋にあつたのです。そしてさだ子の部屋には、さだ子は勿論、伊達さんもおりましたことは、いつか私が申し上げた通りでございます」
ひろ子はここまで語つて、自分の言葉が相手にどんな効果を与えたかと、しばらく観察しているようであつた。
「次に二十日の夜の事件でございます。先生は如何お考えか存じませんが、十七日の事件の犯人と二十日の事件の犯人とが、全く別だというのは、私には考えられませぬ。私は断じて同一人であると存じます」
6
「ほほう、それはどういうわけですか」
藤枝が、非常に興味をもつた調子で訊ねた。
「やすや[#「やすや」に傍点]が殺されたからでございます。早川辰吉がやすや[#「やすや」に傍点]を殺したとすれば余りに偶然すぎます。やすや[#「やすや」に傍点]を殺すことは十七日の犯人の為に大へんな利益があつた筈ではございませんか。何故つてやすや[#「やすや」に傍点]は薬をとりに行つた女でございます。犯人が何かの計略を用いてやすや[#「やすや」に傍点]を買収したか、またはやすや[#「やすや」に傍点]が犯人を知つていながら、何かの理由で黙つていたのでございます。ところが、やすや[#「やすや」に傍点]は先生や林田先生のはげしい訊問にあつて、危く口を割りそうになつた。犯人はこの状態に気がついていたにちがいはございません。この状態に気のつき得るものはあの当時、私の家の中にいた人間と申さなければなりません」
「そうです。その通りです」
藤枝が感心したようにつぶやいた。
「二十日の事件では直接の犯人はどう考えても男と思わねばなりませぬ。あんな乱暴なまねは決して女には出来るはずがありませぬ。伊達さんが、まずやすや[#「やすや」に傍点]を庭で殺したのです。そう思うより外ありません」
「すると駿太郎君は?」
「やはり伊達さんにさそわれたのでございます。妹と伊達さんは十七日の犯罪の発覚を防ぐためにやすや[#「やすや」に傍点]を殺すと同時に、更に自分の目的に一歩近づいたわけなのでございます」
「自分達の目的?」
「さようです。あの二人には、大へんな目的があると存じますの。それについては後で申し上げたいと存じます。そこで昨日の事件ですが、これは不思議にも二十日の事件と正反対で、犯人はどうしても女であるとより考えられませぬ。ジョセフ・スミスは夫でございました。初江には夫はございませんでしたから……」
「全くです。それは私も同感ですよ」
藤枝がほんとに感服したような声を出した。彼は半分ほど灰になつたシガレットを皿にすてると更に一本口にくわえて火をつけた。大変にひろ子の話に興味をもちはじめたと見え、両手をしきりとこすり合わせている。
「私が、さだ子と伊達さんが犯人にちがいないと考えましたのは、いよいよ昨日の事件があつたからでございます。第一の事件の場合は犯人が男か女か判りませんが、第二の事件では明らかに男が活動しております。ところが第三の事件では今申し上げた通り、たしかに女が働いております。第一、第二、第三の事件が仮りに同一犯人によつて行われたとして、一つには男が働き、一つには女が働いている。こう結論をたててまいりますと、さだ子と伊達さんを疑うより外仕方がないのではございませんか」
「ひろ子さん、しかし昨日はさだ子さんはずつと二階にいた筈ですよ」
「はい。はじめは伊達さんと、後では林田先生と」
「伊達君と話していたという場合が疑わしいと云われるのですな」
「無論でございます。しかし、ねえ先生、林田先生と妹が話していたということについて、何か妙なことにお気がつきません」
私は愕然とした。昨日同じようなことを藤枝が私に云つたではないか、私は彼が何と考えるか、全身を耳にして待ちもうけた。
「妙なこと? さあ……」
「こういうことでございますの。第二の事件がおこりました時、あの二十日の夜、やはり妹は林田先生と二人で二階におりました。そうして昨日やはりまた二人で二階に居りました。いいかえればあの二人がさだ子の部屋にいる時、いつも恐ろしい事件が起つているではございませんか」
7
「そうです。そうです。その通りです」
藤枝が突然大きな声で云つた。
「ねえ先生、これはどう考えたらよいでございましよう」
「ひろ子さん、あなたはどう思いますか」
藤枝は、非常にムキになつて訊ねている。
「一言で申せば、林田先生が何かの理由でさだ
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