子をかばつていらつしやるのではございませんかしら。何かの理由で、さだ子の為にアリバイを立ててやつていらつしやるのではないかと存じますの」
「林田がさだ子さんを庇つている? 不可能です。断じて!」
「いえ、勿論、林田先生はさだ子達の犯罪には気がついておられぬのです。犯罪をかばつてやつてらつしやるわけではないのでしようが……」
 ひろ子は、やや弁解するような調子で云つた。
「ねえひろ子さん、あなたはいい所に気がついてはいらつしやるが……それで一体、さだ子さんと伊達君は、どういうわけでこんな恐ろしいことをはじめたのでしようね」
「それでございます。勿論殺人の動機などというものは、無暗に判るものではございません。けれど私にはこんな気が致しますの。あの二人を動かしている根強い力はこの秋川一家に対する恨みでございます。それから直接の動機は無論金銭上の問題だと存じます」
「うらみ? あとの方はよく判つていますが、うらみとは?」
「先生、これがお判りになりません? 伊達さんは、一体何者でございましよう。全く当家にとつては他人ではございませんか。その人に私の家の財産の三分の一を与えるなどということは父が気でもちがつているのでなければ云えた話ではございません。父にきけばいずれ伊達さんのお父さんと同郷だつたとか、世話になつたとか申すに違いございませんが、それならば、父は何故はつきりそれを云わぬのでございましよう――仇です。きつと敵です。伊達さんの父は、私の父のきつと仇だつたにちがいありません」
 この一言をひろ子は、はつきりと云い切つたが、この言葉をきいた時、藤枝の右手からエーアシップが床にポットリとおちたのを私は見のがさなかつた。彼はあわててシガレットを取り上げたが、こんなに彼が驚いたところを、私は今まで見たことはない。このひろ子の言葉が如何に藤枝をおどろかしたか。何故、こんなに藤枝がおどろいたのだろう。
「仇でございますとも。あの人の父はきつと私の父を恨みながら死んだのにちがいありませぬ。それでなければ何故父がああいう風にずつと恐怖しつづけているのでしよう。伊達さんがおそらくは父の過去の秘密をかぎつけて脅迫状を父に送つていたに相違ありませぬ。父は誰か終生の敵をもつているのでございます」
「では、その終生のかたきの子を育てているのは?」
 藤枝の声はかすかに慄えている。彼は何か非常な興奮を抑えているらしい。
「父の罪亡ぼしでございます。私は父の過去も伊達さんの過去も存じません。ただ女の直観としてそう思うのでございます。父は過去に、伊達一家に対してなした何かの罪のつぐないをしているのでございます。私は自分の本能を信ずると同時に、この事実が論理的にもよくこの状態を説明することが出来ると信ずるものでございます。もしそうでなければ、何度もくり返す通り、何故父があんな馬鹿げた婚約の条件を出したのでございましよう」
 藤枝が、全く興奮した表情で思わず何か云おうとした途端、口にくわえたシガレットが床に落ちたが、今度は彼はそれに気がつかなかつた位、ひろ子の話に夢中になつていたのである。

      8

 この藤枝の様子に気がついたかどうか判らぬが、ひろ子は更に話をつづけた。
「ねえ先生、それに伊達さんの相手がさだ子ではございませんか。さだ子は母が死ぬ前の日に申した通り、たしかに母のほんとうの子ではございません――おお、そういえば、先生は、あれはしかしたしかに父の子だといつかおつしやいましたね」
「そうです。今でもそれは信じています。ひろ子さん、あの方の横顔をよくごらんなさい。争われぬものですよ。お父さんに実によく似ているじやありませんか。どんなにかくしても真実の肉親は必ず横から見ると判るものですよ」
「そうでございますか……と致しますとなおさら二人を疑わねばなりませぬ」
「とはまたどういうわけで?」
 ひろ子はちよつと何か考えていたがやがてまたつづけた。
「これは子として父を非難することになりますので、大変申し上げにくいのでございますけれど……事がこう切迫した以上、それに父がどうしても口にはつきり出さない以上、おまけに私がすでに犯人と思われる人の名をはつきり申し上げた以上、かくしておくわけに参りませんからお話致しますが、さだ子が母の子でなくてしかも父の子であると致せば、さだ子の母は何者でございましよう。勿論私には判りかねます。けれど、父が再婚したという話はきいておりませぬから、きつとさだ子の母というのは私の母以外の者で、何と申しますか、まあかくれた女だつたと思うより外仕方がございますまい。母が死ぬ前にちよつと口を開いた当時の口ぶりによつても、そう考えるのが一番真相に近いと存じます。母のことですから、さだ子の生母の事を知つても、烈しく父と争わなかつたにちがいあ
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