てよろこんだ、しかし脅迫状はそれから送られなくなつた、この点から僕は君が娘に打たせていたものだと考える。君の娘は、母の命令で打つたタイプライターが意外にも現実となつたので、極度におそれて何と云つても打つことを肯んじなくなつたのだ。第一の事件以後、秋川家に脅迫状が送られているが[#「第一の事件以後、秋川家に脅迫状が送られているが」に傍点]」、無論あれは[#「無論あれは」に傍点]、君の手から送られたものではない[#「君の手から送られたものではない」に傍点]」
 この言葉は、ふしぎそうな顔をしている私に対する説明のようにきかれた。
「ところが、昨日の事件がおこると同時に、伊達正男が捕えられておまけに自白したということになつた。伊達正男は君にとつて可愛い甥だ。これを殺しては大変だ。秋川家に不幸が来るのはさいわいだろうけれど、伊達が疑われようとは君は思わなかつたのだ。それで思いあまつて君は警察にとび込み、伊達の無罪を主張する。一方、自分ののろいの目的はもう達したし、今からかえりみれば今までの罪が余りにおそろしいので、死ぬ気になつたのだ。どうだ君、僕の云つたことは大体に於いてまちがいはないつもりだが」

      10[#「10」は縦中横]

 里村千代子は、藤枝がしやべつている間、身体をもがいて苦しがつていたが、さつき、秋川駿三を悪魔! とののしつたきり一語も発し得ず、だんだんようすが悪くなつて行つた。
 蘆田博士は、眉をよせながら見ていたが小声で、
「どうも思わしくない。いけないかも知れん」
 と警部にささやいていたが、はたしてその夕方息を引取つてしまつた。彼女の帯の間に遺書らしいものがあつたが、それには藤枝が述べたと全く同じ事情が書いてあつた。
 ただこれによつて新しく判つたのは彼女が最近、赤坂の今井病院という婦人科の看護婦としてつとめていたこと、さと子という十七才になる娘が丸ビルのオフィスにタイピストとしてつとめているが、その娘は何も知らずに母の命令で脅迫状をしたためたこと、決して彼女には罪のないこと、それから伊達正男には一回もあつたこともなく、手紙を出したこともないということを記されてあつた。
「なるほど、看護婦をしているのか。それで判つた。犯人が千代子とどこで電話で連絡していたのかということが今までよく判らなかつたのだよ。貧乏人が電話をもつているわけがないからな」
前へ 次へ
全283ページ中223ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング