なお、秋川家の殺人事件に関しては、さすがにはつきりしたことは記していない。自分が犯人だ、と口では云つたものの、全然でたらめを書くことは出来なかつたと見え、遺書には自分が犯人だとは書いてなかつた。ただ何者とも知れぬ男から時々電話がかかり、その男も秋川家を呪つているときいて一緒にやる気だつた、しかしその男に一目も会つたことはないと記してあつた。
 これは、彼女が死んでから、すなわち五月二日の夕方に判つたことであるが、警部はそれまでずつと病院にいたわけではないのだ。
 警部は藤枝が千代子に自分の確信を述べて彼女が一応それを肯定すると、ただちに警察に引かえして、伊達正男を取り調べた。
 警部は、伊達正男に改めて、里村千代子の出現を語り、合わせて藤枝の調査して来た事実を物語つたのである。
「僕も昨日それをはじめて知つたのです。恐ろしい過去です。僕の過去にそんな恐ろしい事実があろうとは全く思いがけませんでした。あの親切なおじ[#「おじ」に傍点]さんがそういうお方とは……もう叔母さんて方は駄目なのですか。一目会いたいような気がします……」
 伊達の顔はいいようのない複雑な表情でいろどられていた。
「僕には大体のことがもうはつきりして来たような気がするんだ。ねえ伊達君、手数をかけないで男らしく事実を云つてくれないか」
 藤枝がきびきびした調子で云つた。
「勿論こうなれば云つてしまいます」
「君のお母さんの遺書という奴ね。一体君はどこにかくしたんだい。家宅捜索で判らなかつたそうじやないか」
「あれですか。ありや僕わざと読みさしの雑誌の間にはさんであつた本屋の広告の間に入れておいたんですよ」
「あはははは。エドガー・ポーの知慧だな。パーロインドレターか。うまいかくし場所だ。ところでそれにはどういうことが書いてあつたかね」
「余程古いもので字もはつきりしていませんが、母の名が記してあつて相手は秋川のおじ[#「おじ」に傍点]さんです。自殺する前に一生の願いとして自分の子をあなたに托す。あなたもすべての罪のつぐないとして立派な男に育ててくれというのです」
 さすがに伊達の声音には沈痛な調子があつた。
「ところで昨日君があのピヤノの部屋に入つた時、秋川駿三はもう死んでいたのかね。それともまだ生きていたかね」

   最終の悲劇

      1

「それが僕にはどうもはつきり判らないのです
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