いつて来て警部の耳に何かささやいた。
 警部の顔色にはちよつと驚きの表情が現れたが、
「すぐ署の方に引つぱつてくれ給え」
 と云つて刑事をまた室から送り出してしまつた。
 警部の言葉に従つてわれわれは一応警察に行くことになつた。警部はああ云つたものの勿論藤枝や林田を疑つているわけではないので、一足さきにひろ子とさだ子を連れて帰ることになり、あとから両探偵、木沢氏及び私に出頭するように命じた。
 秋川家には、野原医師その他刑事が残り判事検事の一行を待つことになつた。
「どうもひどく立腹されちやつて閉口したよ」
 と藤枝。
「うん全く。まあ参考人となつて警察へよばれる経験もやつて見るさ」
 と林田は笑いながらいう。
「一体誰を警察に引張つたか君知つてるかい」
「うん、僕はさつきちらときいた。伊達だよ。刑事が女中の久や[#「や」に傍点]を訊問したら、さつき夕方伊達らしい男がいそいで台所の窓の外を通つた、というんだ。どうもあの男が夕方ひそかに来たらしい」
「何? 伊達?」
 藤枝は思わず叫んだが、しばらくして何を思いついたか、
「うん、なるほど」
 と一言云つた。
 伊達が、牛込警察署に着いたのは七時頃だつた。
 無論、参考人だし、いかに警部がああ云つても、どうしても普通の人に対するときとはちがうので、かなり鄭重に取り扱われた。
 藤枝、木沢氏、私は一緒に事件当時の模様をきかれたが、誰の言にも矛盾のなかつたこと云うまでもない。
 しばらくすると、警部が、さつきとはうつてかわつたいい機嫌で室にあらわれた。

      3

「藤枝さん、木沢さん、いろいろ御厄介をかけましたが、今日の犯人が捕まりましたよ」
「え、犯人が捕まつた」
 藤枝がきく。
「そうです。今日あの家に侵入したのは伊達正男です。あの男が夕方、ひそかにうら門からはいり台所のそばを通つて庭に行つたのです。それからあのピヤノの部屋の窓のところに来ると、駿三がうしろをむいているのに出会したのです」
「それで?」
 藤枝がきく。
「それからあとの殺人については無論未だ自白はしません。しかし、彼が秋川邸に行つた事実はようやく認めましたよ」
「高橋さん。ではあなたは今回の犯人を伊達だと思うのですね」
「無論です」
「では第二回目の事件では早川辰吉を、第一回と第三回の事件ではひろ子を、しかして今度は伊達を犯人だときめられるの
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