の前に立つていたことになるが」
と云つた。さすがは彼、藤枝と同じ推理の上を行つている。
この時、笹田執事がまた室にはいつて来て、
「只今警察の方々が見えました」
と云いながら、あとからつづいて来た高橋警部、野原医師らに軽く会釈した。
「いよいよほつておけん。片つ端から拘束しなくては……藤枝さん、林田さん、一体これはどうしたのです」
警部はひどく機嫌が悪い。
「林田君は全く知らないんですよ、当時うちにいましたから。僕と木沢氏と小川君がこの家にいたのです」
藤枝は手短かにまた今までの話をくり返したが、面倒くさいと思つたのか、駿三の過去の秘密については余りふれず、何か駿三が重要な用を思い出して書類をとりに来たものと説明した。
2
藤枝の話を黙つて聞いていた警部の顔にはいまだかつて見たことのない儼然たる色が浮んでいた。
「そうですか。よく判りました。しかし私は今はつきり御両君に申し上げておきます。第一回の殺人事件の時は別として、その後連続して起つた惨劇はいつも必ずわれわれ皆が、または少くも誰かその一人がいる時に行われている。第二回目の場合は御両君はじめ私自身もこのうちにいた。第三回目の時は林田さん、今回は藤枝さんのいる時に行われた。もしこのままで行く時にはわれわれの信用は全く地に墜ちねばならん。いや、もうすでに落ちているかも知れない。御両君はともかく、私自身は今回の犯人が捕まらぬ時は断然辞職する覚悟です。従来は御両君の今までの功績に敬意を払い、自由に行動をとつていただいたが、今後は私は御両君を全く普通の人同様に取り扱いますから左様おふくみを願い度い。御両君を疑わぬのが私のせめてもの好意と思つて頂きたい」
この最後の言葉はかなり失礼な言といわねばならぬ。しかし今や職を賭《と》してかかつている警部の言としては当然でもあり、また一面甚だ悲痛にもきこえた。
藤枝も林田もどう思つたか判らぬが、表向は全く恐れ入つているように見えた。
「私は今日ここにいた者全部に警察に出頭して貰い度いと思う。失礼だが藤枝さんも小川さんも、それから木沢さんにもおいでを願いたい。林田さんはここにおられなかつたけれども……」
「いや、私も無論行きましよう」
「ではそう願いましよう。家族は勿論です。雇人の二人の女中は今刑事に調べさせていますが……」
この時一人の刑事がいそいでは
前へ
次へ
全283ページ中212ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング