ていたことを知つたのです[#「宿命的な関係に立つていたことを知つたのです」に傍点]」

      7

 藤枝がここまで語つて来ると、ベッドの上に坐つていた秋川駿三は、もはやきくに堪えぬというように、手を振つて藤枝を黙らせようとした。はたで見ていても、ほんとうに気の毒らしいあわて方であつた。
 木沢氏は、なりゆきが余り面白くないのでこれもちようど藤枝に注意しようとしているところであつた。
 この様子を早くも見てとつて藤枝は制するように語りつづけた。
「秋川さん、御安心なさい。私はこれ以上、何も申し上げませんから。あんな惨劇、あれだけの犠牲を払つてもなおあなたが守ろうとする秘密を、私は決して軽率にも口に出すようなことはしますまい。ただ一言申し上げておきたいのは、この藤枝真太郎だけはこの秘密を十中八九完全に知り得たということです。そうして、私の知り得た所にして誤りなくんば、あなたは脅迫状が誰人《だれびと》によつて、何故にあなたに送られたかを知つていらつしやるはずである。そこです、私が今うかがつた用件は。ねえ秋川さん、あなたには脅迫状が誰から送られたか、全くあてがつきませんか」
 駿三は一言も発しない。自信に富んだ藤枝の前で、一体どう答えたらよいのか迷つているように見える。二十日の夜藤枝が駿三にせまつた時とは大分事情をことにしている。藤枝は今や秋川家の秘密を探り出してしまつたのである。少くも探り出したと称している。
「秋川さん、どうか周囲の事情をよく考えて下さい。警察ではひろ子さんを疑つているようです。令嬢方のことをお考えになつてどうしてもそれを云つて頂かぬと困ると思うのですが」
「判りました」
 はじめて駿三が力なく云つた。
「しかし私にもほんとうは誰が送つて来たかわからないのですが」
「ではどうでしよう。こう考えて見ましよう。あなたと私二人だけが知つている秘密から察すれば、あなたにああいう脅迫状を送りそうな人間は、伊達捷平すなわち正男の父の兄弟から、でなければその夫人かよ子の兄弟たちだということになります[#「伊達捷平すなわち正男の父の兄弟から、でなければその夫人かよ子の兄弟たちだということになります」に傍点]」
「…………」
 駿三は無言だつたが、仕方がないというようすで首をたてにふつた。
「ところが、捷平には御承知の通り、まるで親類というものがなかつた。して見る
前へ 次へ
全283ページ中203ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング