が起るか判りませんよ」
木沢氏は暫く心の中でじつと考えている様子だつたがやがて決心がついたと見え、
「ではともかく御主人の様子をもう一度見て来ましよう。御主人の方でも会うという意思があつたらちよつと位話をなさつてもいいかも知れません。これは無理な注文ですが、なるべく興奮させないようにして頂きたいですね」
「それは充分注意します」
木沢氏は応接間を出て行つたがしばらくたつとまた戻つて来た。
「会うといつておられます。大変失礼だが、自分のへやに来てくれろということですが……」
「そちらがかまわなければ無論うかがいましよう」
木沢氏が先に立つて、われわれは階段を上つた。
とつつきの右側が主人の寝室である。
木沢氏はノックをしながら、
「藤枝さんが見えました」
と軽くいうと中から、
「どうぞこちらへ」
という主人の声がきこえた。
次の瞬間にドアが開いて藤枝と私は、木沢氏にみちびかれて秋川駿三の寝室にはいつた。
「どうか、そのまま、そのままで、どうか」
おき上ろうとしている駿三を見て、藤枝があわてて手を出してとめたが、駿三はちやんとベッドの上にすわつてしまつた。
「こんな所で大変失礼ですが、木沢先生が余り動かぬ方がいいと云われるので」
「結構です。私こそ無理にお願いして申し訳ありません。時にいかがですか、御容態は?」
「いろんなことがひきつづいておこるので、とてもおちつけません。これが一番、いけないんだそうですが」
「お察しします」
「早速ですが何か御用件がおありになるとのことでしたが」
「はあ、そのことです」
藤枝はこう云つて何か重大なことをこれから話そうとするらしく、きつと駿三の顔を見た。
「私は最近一人で旅行をして来ました。そして今帰つたばかりです。私の行つたさきは山口県の今泉という町です。すなわちあなたが今から約二十年前に住んでおられた所です」
「山口県の今泉町?」
駿三は愕然としたらしい。驚き方がかなりひどかつたので、木沢氏が心配そうに腰をうかした。
「そうです。そこは今から二十年前にあなたが住んでおられた所で、そうして同時に伊達正男の父母|捷平《しようへい》夫婦が住んでいた所です。秋川さん、私はあそこで数日かかつていろいろなことを調べて来ました。伊達家と秋川家のあいだのことをくわしく研究しました。その結果、秋川家と伊達家とが宿命的な関係に立つ
前へ
次へ
全283ページ中202ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング