成程藤枝は弁護士ではない。しかし彼はかつて検事を勤めていた事がある。しかも平生正義という事をうるさい程口にしている彼である。たしかにひろ子が犯人でないと信じていながら、(少くも私にはそういう風に彼は云つた)一言も弁解してやらぬとは何たる醜態だ。
私の前で、いや御大層に大きな事を長々と述べたが、それは結局警察では一言も取り上げられなかつたのではないか。
私は余りの腹立たしさに暫く文句もいえず、思わず外から車の中に手をのばして彼の腕をつかんだ。
「おい藤枝? けしかけたとは何事だ。君、君は何故彼女の為に弁解してやらないんだ!」
生憎この時発車を知らせる警鈴が鳴つて、私は駅員に注意されて残念ながら車からはなれなければならなかつた。
「あははは。まあそう怒るなよ。ね、よく考えて見給え。よく! じや御機嫌よう」
一瞬の後ムキになつている私を残して汽車は悠々と行つて了つた。
プラットホームを歩きながら、私は、すぐにこのまま警察にかけつけて、警部に直接面会し、藤枝の吹いた同じ論理で警部をとき伏せ、是が非でもひろ子の為に弁じてやろうと勢こんでかけ出し、駅の階段から歩を地面にうつした途端、何故か私は今云つた藤枝の言葉をおもい出した。
「よく考えて見給え。よく!」
はて、どういう意味かしら。
後から考えて見れば――いや、あとからでなくても、賢明なる読者には私が今まで展開した事実から推して、藤枝が何故ひろ子の為に弁解してやらなかつたか、という事は充分お察しがついたろうと思うがおろかにもその時の私には全然意味が判らなかつたのである。
しかし、自分が警察にかけこむ事だけは非常な克己心をもつて我慢した。今まで藤枝のやる事には必ず何か理由があつたから。
私はあえて克己心という。何故ならば、はたして藤枝の予言通り、ひろ子は留置こそされなかつたけれども、この日おそくまでとめられ、翌日すなわち四月二十七日から四日間連続して厳重に取り調べられていたらしいからである。
私は長いこの物語りの中で、たつた一個所此処でわがセンチメンタリズムに触れるのを許して頂きたいと思う。
読者よ、愛する美しき女性が無実の罪になやめるのをだまつて見ているその私のこの気もちは一体何にたとえたらよかろう。
第四の惨劇
1
思えばこの四日間はひろ子にとつてはおそらく、私にとつては勿
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