警察に行つた。
 この夕方伊達は帰宅を許されたが、また明日呼び出されるという事である。
 早川辰吉の方は、藤枝が云つた通り、邸宅侵入罪で拘留されて、なお殺人の方を盛んにつつこまれたらしいが、まだ自白とまではいかぬらしい。
「夢中で、やす子の首をしめたのかも知れぬ、という所までこぎつけたんですがね。……駿太郎の方は断じて知らんと云つています。なお私の方では、今までの彼の経歴を調べるために刑事が、ゆうべ大阪に行きましたから、じき素性は判るでしよう。前の情婦の岡田かつ、という女との関係も調べる筈になつています」
 高橋警部はこう私達に説明した。
 その夜、私はまた藤枝を訪ねた。あいかわらずまだ熱は下らぬようだ。
 ベッドの傍《かたわ》らには、今朝の新聞と今夕の夕刊とがたくさんおいてある。いずれも大見出しで「秋川家の怪事件」「犯人(?)捕わる」というような事が書かれ、家族一同と、早川の写真が掲載されてある。

      4

 しかし、伊達が警察にとめられた事は、成程、余程秘密になつていると見えてどこにも出ていなかつた。これはけさ藤枝が警察と電話で話した時も、警察の方で云わなかつたらしい。無論藤枝自身が電話に出れば、警察でも語つたのだろうが母が代つて会話をしたために云わなかつたらしい。警察の用心のほどが思いやられる。
 だから、伊達がとめられた一件と、駿三の機嫌がなおつて来た事とは、この日私が藤枝に伝えることのできたニュースであつた。
 四月二十二日は斯くしてあけ、斯くしてくれた。
 翌二十三日の朝、わりに早く、私は藤枝に電話でよばれていそいでかけつけた。
 私が藤枝のところに着いた時は、丁度、かかりつけの医師が来ていて、何か薬をしきりと彼の咽頭部に塗つてやつているところだつた。
「先生に、しやべるのと煙草を喫うのはいかんて、今叱られたばかりなんだがね。どうしても君に云わなきやならぬ事があるので、君をよんだんだよ」
 私が医師に挨拶してしまうと、半ば弁解がましく藤枝が云つた。
「しかし君、どうなんだい。身体は。……如何です。昨日よりはいくらかよろしいでしようか」
 私は医師の方に向いた。
「余り変りませんな。熱もまだあるし、まあ四、五日は静養される必要がありましよう」
 医師は無論藤枝の職業を知つているので、何か私と秘密の話があると推察したと見え、一応、手当を説明して直ぐ
前へ 次へ
全283ページ中143ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング