こんな話をしている所へ、ひろ子がさだ子と一緒にはいつて来た。
「小川先生、藤枝先生がご病気なんですつてね」

      3

「ええ、風邪をひいちまつて困つてるんですよ」
 まさかお宅の煙草のおかげで咽喉を悪くしたとも云えない。
「でもあなたがおいで下さつてほんとに安心致しましたわ。それに林田先生もずつといて下さるつておつしやるので……」
「はあ、私なんかは役には立ちませんが、当分お淋しいだろうからお相手でもするように、と藤枝が云いますので」
 これも、まさか監視に来たとは云えないのである。
「父も実は大変喜んでおりますのよ」
「おや、御機嫌がなおりましたか」
 こう云つたのは林田であつた。
「はい、一時は大変力を落して、もうどなたにもお目にかからぬような事を申しておりましたのですが、昨日もああやつてお運びを願つた事をきいて今日はもうすつかり感謝しております」
 さだ子が云つた。
「ただ木沢先生が今日一日はどなたにも会わずに静かにしていた方がよい、と申されますので今日は失礼するから、私共からくれぐれもお礼を申し上げるようにつて只今云つておりました処でございます」
 ひろ子があとを引きとつて語つたが、ともかく、この家の主人公の気分がなおつてくれたのは何よりである。
「あの、林田先生、只今妹からききましたんですが、伊達さんが警察から帰らないとか……」
「ええ、どうも警察では一応伊達君をも留置したらしいのです。さだ子さんからのお頼みもありますし、またあとでもう一度行つて見るつもりですが。ただ此の事は非常に秘密になつているのですからそのおつもりで……」
 こうやつて四人は暫く応接間で語り合つていた。伊達がどうして戻つて来ないのだろう。彼がとめられたとは初耳である。
 さだ子が、憂わしげに見えるのも無理はない。
 ひろ子達の好意で、昼食は秋川家で食べる事になつた。下の日本座敷でひろ子、さだ子、初江、林田、私が一緒に卓をかこんだ。
 主人は、まだベッドを離れられぬので、久や[#「や」に傍点]という女中が二階に食事を運んで行つたらしい。
 食事中は初江が女中の代りに給仕をしてくれたが、よく見ると成程、昨日木沢氏が云つた通り、このお嬢さんが、一番、発達した健康そうな肉体をもつている。
 夕方までいたけれども、別にこれと云つて、変つた事もないので、林田と私は六時頃、秋川邸を辞して
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