て見ようよ。君は気がついていたろうが、親戚の人々は御義理で来てはいたものの、皆何となく今度の夫人の死を怪しんでいて不気味に思つているようだつたから夜になれば皆帰つてしまうよ。銀座ででもゆつくり飯をたべてちようどいい時分に行つて見ようじやないか」
二人はそれから暫く銀座で時をつぶして、円タクをつかまえ、秋川邸へと向つたがその時はもう、銀座通りに赤い火、青い火が一杯ついて、ネオンサインの光がいたずらに目を射る頃で、日は全く暮れてしまつて居た。
秋川邸では家族は全部もううちにもどつていた。
取次にきくと藤枝の思つた通り親戚は一人残らず帰つてしまつてたつた一人、林田がやはり一足さきに今来たばかりだという事である。
「今日はこつちがおくれたぜ。林田君におくれちやいかん。すぐ捜査開始だ」
3
藤枝と私は上つてすぐ右手の例の応接間に通されたが、藤枝は何だかおちつかない様子をしていた。
われわれに一歩おくれて警部がまたやつて来て応接間にはいつて来た。
お茶をもつて来た女中に藤枝は一刻も早く主人に会いたい旨を告げたがやがて間もなく駿三が現れた。
一通りの挨拶がすむとすぐ藤枝がきいた。
「秋川さん、林田君がもう来ているのですつてね」
「はあ、今しがた見えたようで私ちよつとお話ししました」
「で、今は」
「今、あの女中を調べておられます」
何故か藤枝は不意に立ち上つてドアの把手に手をかけながらきいた。
「女中つて、あの佐田やす子ですか?」
「そうです」
「そうですか。じや僕も行つて見ましよう」
彼はそういうと私をさしまねいて室を出ようとしたが、それはいかにもあわてた様子だつた。
「いや、藤枝さん、いくら当つても同じでしようぜ。私は昨日も今日も調べたんだが、あいかわらずの供述だ。どうもいつている事に嘘はなさそうです。林田さんだつてやつぱりあれ以上は進みますまい」
こういつたのは警部だつた。
「ここをずつと行つた右手の部屋におられますよ。御案内しましようか」
駿三が藤枝のようすに驚いて腰を浮した。
「いや、いいです」
私が彼につづいて廊下に出ると藤枝は小さな声で、
「うん、やはり林田だけの事はある。僕と同じようにあの女を落そう(自白させる事)としているんだ。先を越されちやいかん。かまわぬから僕にも調べさせてもらおう」
とささやいた。
主人の云つた通
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