のかげにかくれ、夜になると狼のように飛び出して人をおそったのであった。
一八九八年、これらの事件は公訴の提起を見、十月二十六日にヴァッヘルは重罪裁判所で公に取調べられた。
被告人は三十歳位、非常に神経質に見えた。常に目は動いて一ヶ所を見つめない。何となく一見不気味に見えたのである。
被告人に対する起訴状が読み上げられている間、彼は絶えず手足を動かし、顔を動かしたりして全く気狂いの有様であった。
ヴァッヘルは凡ての事実を認めた。而て彼は云った。
「私は、私を裁く人々に対して云いたい。私はただ神に対して答えるべきであるという事を! 私は単に、神の一つの愚かな機械であったにすぎない。私は九歳の時、狂犬にかまれた事があるが、それから以後、特に強い太陽の光の下で、不意に狂気の発作におそわれる事があるがその時は全く夢中で何が何だか少しもわからない。その時は、夢中で誰でもまずそこに来た奴をおそい、之を殺すのだ。陪審員諸君よ、私がいいたいのはただ之だけだ。私は、私を自由にしてくれた医者達の犠牲にすぎないのである」
その青年時代に無政府主義を信奉していたそうだが、と問われた時、彼はこういう答を
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