かわれていた事があったのだった。
「私の妻がバタクランのコンセールに行くのですが如何です。お宅のマルテさんも一緒にいっては?」
ソレイランはいきなりこう云ったのである。
マルテというのは、エルベルディングの娘で当年とって十一歳であった。
はじめは、エルベルディング夫人はこれを拒んだけれども、ソレイランはしきりとうながし、自分の妻も亦マルテもきっとよろこぶに違いない、と主張した。
母親もよく考えて見ると、自分の娘をこの男に托す事を特に拒絶する理由が発見出来なかった。殊にソレイランの子供の時代からよく知っている彼女の事だ。安心してとうとうマルテを彼に托し、バルコニーから「オー、ルヴォアル」とよびかけて送り出してやったのであった。
すると午後五時にアルベール・ソレイランが一人でエルベルディングの所にやって来て、マルテがもう帰って来たかと質問した。
驚いて母親は云った。
「いいえまだ。だけど、どうしたんです」
「僕らはバタクランに行ってたんですよ。中々面白かった。がマルテがいつのまにか見えなくなっちまったんでね」
之をきいて母親はさっそくバタクランにかけつけて見ると、丁度今終った
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