出たとこ勝負、偶然中の偶然、殺人狂に出会したのが一生の不運というより外云いようがない。
殺人の為に殺人をする殺人狂の中にも、裁判の結果、全く狂人として無罪を言渡される者と、一人前の人間として死刑台に上るものとの二種類がある。以下その例を少しく記して見よう。
一、ヴァッヘル事件
南欧の「ジャック・ゼ・リッパー」と称せられたヴァッヘルは、まさしく殺人狂の一人であった。
彼が全くの狂人であったかどうかは、専門家の間に可なりの問題を惹起した。
仏国《ふつこく》ボーフォールに生れた彼は、一八九〇年ブサンソンの第六十聯隊に勤務したが既にその頃から野性を発揮して同僚達に恐れられはじめた。
除隊間際に、一人の若い女と恋に陥ったが嫉妬の為に、彼女をピストルで射撃し(但し、殺すには至らず)自分はその場で自殺をはかったが之も未遂に終った。ただこの時、自分のピストルで右耳を射たので以後、右耳は全くきこえなくなり、顔面に時々はげしい痙攣《けいれん》をおこすようになってしまった。
其後も彼はだんだん乱暴を働き暴行をするのでとうとう法廷につれ出されるかわりに、サンロベールの気狂病院に入れら
前へ
次へ
全23ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング