これで僕のいうことは終った。さあきかしてくれ、さっき僕のきいたことだ。僕は妻を殺した。しかし妻は不貞ではなかったのだろうか。」
もし部屋が明るかったら、山本の顔色は瀕死《ひんし》の大川にもまして、死人の色を呈していることが認められたろう。ごくりと唾《つば》をのんで山本が云った。
「君はどっちの答えをのぞんでいるのだ。君の妻が貞淑だったと答えたら、君は安心するのか。」
「噫《ああ》、たまらない。貞淑な妻を疑って惨殺したとは!」
「では不貞だったと答えれば、君は満足できるのか? 久子が君の子でないと判れば!」
「噫、不貞だったとしたら! それもたまらないんだ。ああどうしたらいいのだろう僕は! しかししかしやはりききたい! きいてから死ぬ! 僕は子を作れるのだろうか。久子は僕のほんとの子だろうか? それに君は蓉子によく会ってあの女の気持をよく知っているはずだ。医者として、親友として答えてくれ! 答えてくれ。……僕は君の頭を信ずる! 君の云うことを信じる。君は何もかも知っているはずだ。僕の言葉の僅かの不自然さから、僕の嘘をあてた君だ……しかし、それにしても僕の殺人の動機までは知らぬはずの君
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