だ。立派に泥棒が押し入っている。しかも出刃庖丁をもっている。それを僕が殺すことは不思議はない。なぜならば妻が殺されているからだ。
 僕はすっかり安心した。そうしてはっきりとすじ道をたてて申立てたのだった。ただたった一箇所、犯罪事件に関してはまったくの素人の僕が心配した点がある。それは賊が出刃で、妻をおどかしている最中、妻が悲鳴をあげたとすると、賊が持っている出刃を使用する方が自然じゃないか、と思われたのだ。しめ殺すとすれば出刃庖丁をほうり出さねばならないわけなのだ。そういう場合、強盗は実際どうするか。出刃を投げ出してしめにかかるものだろうかどうか、という点だった。
 ところが係官は美事に僕のいうことに乗せられてしまった。恐らく判事も検事もその道にかけて玄人だから、かえって欺されたのではないかと考える。実際そういう場合があるのだろう。彼等の経験から推して、僕のいうところに不自然さがなかったためだろう。美事に通ったのだ。
 ところが君には僕の嘘が判ったね、君にさっき出刃のことを聞かれた時はいやな気持だったんだ。恐らく君はあの点から疑ったのだろうが、それはやはり君が僕同様に素人だからだよ。

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