。
蓉子は叫ぼうとした。しかし声がつまっていた。けれど蓉子は自分がどうされようとしているかをはっきり知ったらしい。おお、あの時の断末魔の顔! 僕をにらんだあの眼! 呪いをあびせようとしたあの唇※[#感嘆符二つ、1−8−75] 僕の頭から消え去らぬのはそれなのだ。
蓉子はたちまち息絶えた。僕はすばやくたんすの引出しをあけたり、そこらのものをちらかしたりした。賊の手から出刃をとって側《そば》に投げすて、その死体を蓉子の死体の上にのせ、覆面をとって蓉子のくいしばった歯をおしあけてそこへつめこんだ。これらのことは電光のごとく行われた。なぜならば、ピストルの音をきいて、誰かきはしないかという考えがあったから。
こうやって万事にぬかりはないと信じてから、泥棒と叫んで表にとび出したのだが、意外にも早く、夜警の男に出会《でくわ》してしまったのだ。僕はすぐに筋道のたった話をしなければならない。十分に考え切ってなかった僕はやむを得ずわざとそこへひっくり返ったのだ。こうやっている間に頭を冷静にして、警官に対する申立てを考えはじめたのだった。
僕が申立てようとすることに、不自然なところは少しもないはず
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