ずに仆《たお》れたのだ。戦いは実に簡単だった。
この物音に蓉子も久子も目をさました。もしこの時、蓉子が、僕の奮闘を感謝してくれたなら、あんなことにならずにすんだろう。目をさました蓉子は驚いて、
『あなた、どうしたのです。』ときく。僕は仆れた賊をさしながら、
『泥棒がはいったんだ。やっつけたよ。』と答えた。すると蓉子は床の中からはい出して、賊の傍にするすると寄ってその血の出ている有様をながめたり、額に手をあてたりしていたが突然、
『あなた、殺しちゃったのね。……泥棒を。』
『そうさ、かまわないさ。』
『たいへんよ、いくら泥棒だって殺しちゃわるいわ。』
この答えは、否非難は、なんという不愉快なものだったろう! もし僕が殺さなければ、そういう貴様が今ごろ何されているか判らないじゃないか! 僕はかっとなった。蓉子の顔をにらみつけた。この瞬間、賊の死体と蓉子の顔を見くらべているうちに、僕はたちまち非常に有効に利用さるべき機会がきていることに気がついた。
よし! 今だ!
いきなり僕は蓉子にとびかかった。そうして驚いて何もする術《すべ》さえないうち、両腕に全身の力をこめて蓉子の首をしめつけた
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