音のするのをきいてはいながらも少しも怪しいとは思わなかった。そうしてどうして蓉子に復讐してやろうか、どうして彼女を一人で永久にもちつづけられるか、を考えていたのだ。
僕が物音をほんとに聞き始めたのは、蓉子のねている室の次の間でみしみしいう音をきいた時だ。強盗だな! と近頃の強盗騒ぎにおびやかされている僕は、すぐに感じた。いきなりピストルを手にとって、僕はそーッと襖に忍びよったのだ。
ちょっとばかり襖をあけたとたん、蓉子のねている裾の方の襖がするすると開いて、覆面をした男がぬっと首をつき出した。次の瞬間には出刃庖丁らしいものをもった大の男が、ねている蓉子の裾のところに突っ立っていた。
法律がどんなことを云おうとも、深夜、人の家に刃物をもってはいってくる奴を殺すことは、正しいことだと僕は思っていた。否今でもそれは信じている。パッと襖を開くや否や、僕は賊の右側からいきなり一発を発射した。あッと云って賊がよろよろとするところを、僕は飛鳥のようにとび出して狙《ねらい》をつけながら、ピストルを賊の顔につきつけて第二発をその額《ひたい》に撃ち込んだ。美事に命中すると同時に、賊は何の抵抗もなし得
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