重大なことをきくのに、君はなぜほんとうのことを云わないんだ? 君は妻の殺されるのを見ていたと云った。君は妻を賊に殺させたと云った。しかし君は自分が妻を殺したとは云わない。なぜはっきり云わないのだ? 大川! 君は賊を第一に殺して、それから妻を殺したんだろう※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
云う方もきく方も必死だった。つかまれた大川の手もつかんでいる山本の手も、ぶるぶると音をたてるまでにふるえた。
「大川、僕は君になんでもいう、だから君も最後にほんとうのことを云って死んでくれ!」
氷のような静寂を破って、大川のふるえをおびた、わりに落ちついた声がひびいた。
「そうか、君は知っていたのか。僕がわるかった。僕がわるかった。死ぬ前なのに僕はなんということだ。僕が殺したのだ。僕が蓉子を殺したのだ。間違いはないほんとうのことをいうから聞いてくれ。
あの夜、僕は一時頃に床に入った。しかしどうして眠れよう。ピストルを出して妻を殺そうかどうしようかと迷っていた僕だ。僕はね返りばかりしながら床中で悶々としていた。ところが三時頃だったろう。台所の方で妙な音がするのだ。しかし頭の中に悩みを持っていた僕は
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