う。君の答えもあいまいなものなのだ。僕の子かもしれないのだ。僕はこうやって妻が妊娠してから約二年あまり苦悶に苦悶を重ねてきたのだ。
どうにかして証拠を捕えたい、こう念じたが、蓉子は完全に自分の行為をかくしていた。僕は更に君以外の医者に自分の身体を診て貰おうかとも考えた。しかし一方から思えば、久子が僕の子でないことが判ったからとてあとはどうなるんだ。蓉子を知っている僕は彼女が素直に自白するとは信じなかった。いやたとえ自白したところでどうするんだ?
もし蓉子が米倉を愛していると自白したらどうなるのだ。久子が米倉の子だということが判ったからとて幸福になるのか。法律はもちろんある結果をつけてくれるだろう。けれど、法律がどう解決をつけようがこの深刻な問題が少しでもよくなるのか。山本。妻を奪われた夫は一体どうすればいいんだ!」
「…………」
「誰でも考えるだろうが一番はじめ僕の頭に浮んだことは妻と男をいかなる手段ででもやっつけることだ。けれど僕は米倉と自分とを比べてみた。もしなんらかの方法で米倉をやっつけるとすれば、世間はどう思うだろう。何も知らぬ世間は彼の盛名に対する僕の嫉妬だとしか考えぬで
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