讃する米倉以外の誰であり得るんだ?」
「僕は夫になったこともなし、芸術家でもない故かもしれぬが君に急には賛成しにくいね。」
「けれど僕だとて、空想や邪推ばかりしていたわけではないんだ。ことに蓉子の身体に異状が来てからはかなり冷静に考えたのだ。
君はおぼえているだろう。蓉子が妊娠したことを。君に診断して貰いに来る前に、僕が君を訪ねたことを。あの時、僕は君に、一体僕は子供を作り得るかどうかをきいたはずだ。かつてある種の病気を君に治療してもらった経験から、君にはその判断がつくと思ったのだ。妻が妊娠した時、それが果して自分の子かどうかを疑わねばならぬ夫ほど、不幸なものが世にあろうか。しかも僕はそれを疑ったのだ。だから君にはっきり聞いたのだ。ところが君は、
『できぬことはないだろう。』
というような生《なま》ぬるい返事をした。恥かしい自分の立場をかくすためには、強《し》いてそれ以上きくことができなかったのだ。しかし僕はあの時の君の返事を否定と解釈している。だから妊娠した時、僕の疑いはまったく確実だったもののように思われたのだ。
ああ、しかし、さっきも君に言われた通り、証拠のないのをどうしよ
前へ
次へ
全44ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング