けじゃないが、あいつは人間より何より芸術を愛する女なんだ。頭もいいし口もうまいんだ。訊《ただ》したところで白状なんかするやつじゃない。だから僕は一回だとてそんなはずかしい質問をしたことはないよ。」
「それじゃ奥さんがけしからんことをしたかどうか第一疑わしいじゃないか。」
「君は法律家のようなことを云う。それが怪しいと考え感じたくらいたしかなことはないじゃないか。しかも相手は米倉以外に誰が蓉子に愛される資格があるか。君、僕のいうことは無茶のようかもしれない。しかし、夫としての直観を信じたまえ、そうして僕が芸術家としての直観を。直観といっていけなければ本能を!」
「…………」
「明かに云えば僕は妻の挙動が怪しいことを感じた。しばしばいいかげんなことを云って家をあけることを知った。これで十分じゃないか。ある口実を構えて蓉子が出かける。調べてみると(卑劣なことだが僕は調べたよ)まったく嘘だ。これだけの事実は、検事には不十分かもしれない。しかしわれわれには妻の不貞を信ぜしめるに十分じゃないか。その上、平生の蓉子の口に現わせぬ態度等を考えれば文句はないんだ。しかも相手は蓉子が僕の前でさえときどき賞
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